35年ぶりにバッハの平均律に挑戦 1巻13番嬰ヘ長調 ① 電子楽譜Piascoreを活用 

アラフィフのアマチュアピアノ弾きです。30年ぶりにピアノを再開して4年近くが経ちますが、ここのところ練習時間が限られていることもあって、久々にバッハの平均律を弾いてみました。

もともとバッハは大好きでした。見開き2ページと短くて、曲をまとめる練習になるし、調性感をつけるにも良いです。

 

最初に弾いてみたのは、第1巻の13番。嬰ヘ長調です。シャープが6個!昔はこういう曲は嫌だったのですが、いずれ弾いてみたいショパンの「舟歌」も同じ調。というか、ショパンにはこの調、よく出てきますので、だいぶ慣れてきました。

神々しい響きという感じでしょうか。光が降ってくるみたいな。本当に美しい曲です。

名演奏

バッハの平均律といえば、子供の頃、リヒテルのレコードを聴きまくっていました。ベーゼンドルファーで、とても響きのいい教会で弾いているのだったかな。穏やかで美しい響きです。一つ一つの音の羅列ではなく、和音の響きで聞こえてきます。30年、40年経った今も、やはり、バッハで、代表的な演奏家のようです。


バッハ: 平均律クラヴィーア 第1巻 第13番 嬰ヘ長調 BWV858 リヒテル 1970

 

それから今、バッハといえばシフ。シフの演奏は、各声部がよく聞こえて、よく歌っており、素晴らしいと思います。演奏会を聴きましたが、特に左手が素晴らしかった。


Bach Nr 13 BWV 858 Fis-Dur I Das Wohltemperierte Klavier András Schiff

 

もう一人素晴らしいと聞いたのが、ロシアのサムイル・フェインベルク。13番は54分28秒から。とても表情豊かな自由な演奏。これも素晴らしいな。


Samuil Feinberg plays Bach Well-Tempered Clavier, Book 1 - LP transfer

バッハの曲だと、PTNAのEラーニングにも良い解説動画がたくさん掲載されていて、本当にありがたい。でも、上記のような名演奏を聴くとそれぞれ個性的なのだから、必ずしも言われた通りにだけ弾かなくてもいいんじゃないかな、という気もする。

自分の練習

さて、この曲、プレリュードについては、2日くらいさらっと練習し、3日目にちょっと集中して弾いて、なんとか録画が取れました。

苦労したのは、フーガ!

子供の頃に暗譜はしているので、何度か弾けば、とりあえずある程度スラスラにはなるのですが、満足いく録音が取れず、予想外に苦戦しています。

録音機と格闘

最初は、録音が下手なせいだと思いました!それで、機材を調べたり、マイクの場所を試したり。これについてはまた別途書きますが、考えてみると、録音機材が整っていなかった時代にも、感動的な名演というのはたくさんある訳で、どうも、「自分の演奏自体が良くないんだ」と気づくのに2週間ほどかかりました!

 

ペダルと格闘

最初に考えたのは、ペダルが下手だということ。それで、ペダルを色々加減して録音してみました。ピアノ(割と大きめのグランド)の弦をよくみてみると、中央のドから低い音は、低音の弦と交差しているため、よく響きます。また、2オクターブ上のファより高い音はダンパーがないので、やはりよく響きます。

問題は、最もメロディーとして活躍する中高音域。ほとんど響かないのです。このあたりの音域を、単音で弾くときは、ペダルをよく使った方がいいのかな、と思い、4分の1ペダルを踏み続け、長い音、トリル、和音になるところなどで少し踏み込んでみました。

 フレーズとアーティキュレーションを考える Piascoreとヘンレ電子版

しかし、ペダルだけでは、綺麗に弾けない!

やはり、弾き方が悪いようです。あたり前ですね。向かいあいたくない現実!

一番の問題は、拍頭にアクセントがつきすぎ。これでは、行進曲じゃないか!!フレーズがきちんとしてないせい。子供の時に流して弾いていたに違いない。直すのは少々大変ですが、各声部ごとに、フレーズを分析して、アーティキュレーションを考えます。離れた音は切って、トリルや長い音の前後は切る。シンコペーションや長い音にアクセント。テーマはしっかりだす。密集は弱め、乖離部分は大きめ。終止ははっきり、次の始まりは弱め。などなど、よくあるポイントを思い出す。赤松林太郎先生がセミナーでよくおっしゃっていること。

それから、ヘンレ社は、シフの運指が書かれた版を出していますが、運指を見れば、アーティキュレーションがわかります。耳で聞き取れない部分は、楽譜で確認。

なお、ヘンレ社は、電子楽譜のアプリもあります。紙の楽譜よりかなり安く楽譜を入手でき、運指も二人のピアニストと白紙という3バーション切り替えが可能で、書き込みや録音、メトロノーム機能もついていてとても便利ですが、画面上に1頁しか表示できないのが残念です。

ヘンレ版は原典版の定番ですが、解釈版の楽譜としては、電子楽譜のPiascoreの中から、 Breitkopf社のものをダウンロードしました。ドイツ語の注釈がたくさんついているので、翻訳ソフトを使えば読めるかも。Piascoreについては、いろんな人がユーチューブなどであげていますが、無料ですし、版権の切れた多くの楽譜のみならず自筆譜もあります。載っている版が多いので、譜めくりがしやすい版を選ぶこともできます。

もちろん、全音市田先生の楽譜も見てみますが、この曲については、あまり書いてありませんでした。指使いは、なんとか全部の音をつなげて弾くにはどうするか、という視点で、アーティキュレーションを考えた運指ではないような気がしました。

椅子の高さと手の形

そんなこんなで、何日かいろいろ試しましたが、どうしても美しく弾けないのです。特に、右手が、鍵盤を打ち付けている感じ。ショパンの曲は、左右の移動も大きかったし、圧倒的に右手を出さないといけなかったこともあり、椅子が高目でした。でも、バッハは、音域が狭くて体の前で弾くことが多い訳だし、右手の指を立てて速いフレーズやしっかりした音を出さなくてもいいように思われます。なので、椅子は低くしました。

 また、腕は前方に伸ばして、鍵盤に乗せる感じにしてみました。手首も手も低めです。子供の頃によく言われた「卵を持つ手」ではなく、自然と鍵盤においた手です。この手の形だと、指の第3関節をほんのわずか動かしただけで、指先が鍵盤を動かしてくれます。「てこ」の原理ですね。反対に、卵の手で打鍵しようとすると、指を丸めて手首を上げるので、手指に力が入ってしまう気がします。指を伸ばす弾き方だと、指の腹で弾けるし、ゆっくりした打鍵と離鍵ができるため、音もかなりマイルドになりました。

 バッハでは、左手もしっかり出したい。左右の動きも意外とあるので、特に低音域になった場合に、重みを少し乗せて、全体がよく響くようにします。強弱は左手でつける。対旋律であっても、しっかり出します。

 このようなことをすると、少し聴きやすくなったかな。でも、まだ、バラバラな感じです。

 アナリーゼ

そこで、「そういえば」、と思い出したのが、アナリーゼ。手間がかかって面倒ですが、やってみると、強調する音がわかる。音符で弾こうとすると、音数も多いし、3つの声部を聞き分けることに注意が行き、「とても聞き分けられないよ!」と発狂しそうになるのですが、和音とか響きで弾こうとすると「頭」が楽になります。つまり、横の流れで把握しきれない(メロディーとしては目立たない)ところは、縦で把握、覚えていく、って感じでしょうか。この曲は、分散和音的な部分も多いので、和音だと思った途端に、アーティキュレーションの細かいところが気にならなくなり、とても弾きやすくなりました。

 アナリーゼで活用したのは、やはり、Piascore。様々な色や太さで書き込みができるのが、ありがたい。ヘンレ社の電子楽譜は手書きの書き込みがやりにくいので、Piascoreがベターです。アップルぺんも購入。

暗譜して浸って弾くために、中声部!

でも、やっぱり、良い録音してが取れません。むしろ、なんだか、聴いていて、イライラするような演奏になってきた。毎日、何回も録音をして、聴き比べるのは、コンクールの審査員の気分で、耳の訓練にはなったかもしれないけど、ミスが全体に与える影響が大きいので、「ミスしないように」という気持ちになってしまいます。でも、ミスって、減らそうと思って減るとも限らない。弾きやすいと感じていると、ミスしにくいものです。先ずは、もう少し浸って弾けるようになってから、たまに録音する、という方が良かったかもしれません。「通して弾くのはせいぜい1日1回、あとは部分練習」というのは、こういう短い曲でこそ実践しないと、すぐに飽きてしまい、音楽でなくなってしまいますね。

私の場合、楽譜を見ながらだと、頭の半分は楽譜をみることに費やされてしまうので、やはり、暗譜だ。暗譜すれば、手元を見たり、目をつぶって音に集中したり、体を動かしやすくなる!ということで、暗譜をやってみる。ほとんど覚えているけれど、録音で聴いてなんだか物足りないところは、やはり、音を覚えていないのです。覚えていないのは、中声部なので、中声部をすごく強調して何度も弾いてみます。

 

やっぱりシフの運指で

暗譜しながら弾いてみると、ただの和音の羅列として弾いてしまっているところが見つかって、楽譜をチェック。そして、感動したのが、シフの運指の素晴らしさ!出すべき音に合わせて、運指が考えられている。1の指の音なのか2の音なのか、3の音なのか。同じように弾くべきフレーズは、運指も統一されているし、レガートなのか切り気味に弾くのかも、指の結合の強さも考えられている!シフの運指は、フレーズを考える上での参考にしていただけで、基本は自分が弾きやすい運指で弾いていたけど、浅はかだった。シフの運指に統一することにしました。3つの音を弾く時、543なのか、432なのか、321なのか、または532なのか、いろいろバリエーションがあるけれども、確かに、全然違う音楽になる。指先のコントロールだけでは無理があるのですね。運指が適切なら、自然に指を動かしても、綺麗に弾ける。

どうして、この指で弾くのか、というのを、すべての音について考えます。

オルガンやチェンバロ、電子ピアノであれば、音色は変わらないから、アーティキュレーションさえ思うようにできればどんな運指でもいいのかもしれませんが、現代のピアノで弾く場合は運指が音色に影響してしまうので、運指に関する考え方が、ピアノとそのほかの楽器では、根本的に違うのだろうと思います。

 

こうやって書いてみると、できていないのは、基本的なことばかり。省略しようとするから、いつになっても、完成しないのですね。

次は、もう少し、練習の順番を考えよう。