昨年弾いた曲を思い出す 発表会に向けて ショパン ソナタ第3番 ロ短調 第1楽章 ①

あと数日に迫った発表会の曲を、変えてもらうことにしました。ショパンピアノソナタ第3番、ロ短調、第1楽章。1年前に弾いた曲を復活させました。そのプロセスを書いておきます。 

1 すっかり忘れて、ほぼ初見状態になっていたので、もう一度譜読みをして、暗譜。1年たつうちに、間違えて覚えてしまっている箇所が多数あることを発見。情けないことに、昨年は転調で混乱することがあった(例えば、ニ長調ロ長調で繰り返す場合に、指が混乱してしまうなど)が、移調の力は少し上がったのか、調性の変化で戸惑うことは亡くなった。少しずつやっていたので、1〜2ヶ月。

2音源を聴いたり、アナリーゼをしたり。どう弾くかをもう一度考え直す。録音も2〜3回はしてみた。ひどい出来である。この曲は攻撃的に弾く人が多いけど、藤田真央とかKate Liuなどは、結構柔らかく弾いている。自分に似合わないことはしない、弱いと言われようと、自分が美しいと思う響きを追求しようと思う。

メトロノームをかけて、指が回っていないところの洗い出し。 2日間くらい。気が狂いそうになる。

4丸一日かけて、何十回か通してみることで、自分のテンポとリズムを取り戻す。ホールだから大きい音で弾こうとは思わずに、メインの音だけ響かせる、ハーフタッチや、テンポの揺れも多用して良いことにする。ぼーっとしていても弾けるくらい、体に覚えてもらう、という目的もある。もう録音はしない。

4さまさまな服を着て弾いてみる。昨年は気にならなかったけれども、やはり少しでも腕に引っ掛かりがあると、気になって、体が固くなることを発見。腕が完全に自由になる服を選ぶ。ストッキングは替えも用意。見栄えを気にせず、ゆったりとした服にする。

5当日の靴を履いて練習。1週間続ける。椅子が高く感じるし、左足をしっかり立てて、支える必要があることに気づく。

6いすの高さや距離、左右の位置をいろいろ変えて何度も弾いてみる。何度もやると、今、椅子が高いのか、低いのか、近すぎるのか、などが、少し判断しやすくなる。体の使い方も全く違ってくる。弾きにくい場所が多数出てくるので、その場合に、体をどのように動かせばいいのかを、検討しておく。自然には動かないからね。曲のこの辺りでは割と左寄り、とか、体近づけて、とか。椅子の段は、一応6段目がベストということにする。

7椅子も2つあるので、両方で弾いてみる。

8いつもは縛っている髪の毛を、垂らしてみると、演奏中に邪魔になることに気づき、ピンで止めることにする。

9Piascoreという電子楽譜を使うことにしたのだが、譜めくりのしやすい位置を見つけるため、左右、譜面台の奥行き、譜面台の角度を、いろいろ変えて弾いてみる。もちろん、近くて画面がまっすぐな方が見やすいが、会場にもよるだろう。

10  ピアノの音色も変えてみる。ふたを開けたり閉めたり。床に絨毯を敷いたり、外したり。3日前に調律もお願いした。

 11 マスクをつけて弾いてみる。マスクも銘柄で随分違うので、いろいろ試す。息がしやすくて気にならないマスクがいい。マスクをつける位置によっても、集中度が違ってくる。鍵盤がよく見えるよう、マスクは少し下方につけた方がいいようだ。

12手を洗って、少し冷やしてから弾いてみる。

13  2日前のレッスンで、腕を伸ばして指を落としてと言われたので、腹筋に力を入れ、少し体を後ろに引き気味にする。この曲は、左右の移動が激しいので、この方が弾きやすい。

14 2日前のレッスンでコテンパンに言われたので、やる気をなくし、この日は練習せず。少し気を取直して、昨年の録画を見てみると、結構良いではないか!過去はこれだけ弾けたのだ、と少し自信が戻ってくる。メトロノームとはほど遠い世界だけど、私にはこっちの方がしっくりくる。弾いてしまえば、誰も文句は言えない。少しごり押しした難曲だから失敗できない面はあるものの、見返してやろうという気分になってくる。浸りきって、ゆったりと弾くことを決意する。レッスンで言われた点の確認だけして、他の曲も弾く。指は動く(つもりな)のだから、あとは、イメージとエネルギーだけの問題だ。出だしは深い悲しみに近いので、泣いてみる。悲しい気持ちを思い出して泣く練習。それから、高音部、低音部など、特に強調すべき箇所をチェックする。ダイナミックに弾くため。もう録音はしない。発狂してしまうから。

15 背中とお尻が硬いので、暇さえあればクネクネ動かしてストレッチ。手や腕をいじると痛くなることがあるので、ストレッチもマッサージもやめておく。手首は相変わらず痛いのだが、テーピングでしのぐ。腕や肩はここ数ヶ月の努力が実って柔らかめである。

16  視線も大事。今回は、楽譜を凝視したまま、宙を睨んだまま、そして、手を見ながら、目をつぶって、の4種類で弾いてみた。

17 前日と朝に少しステーキ。スタミナがつくので。カバンに飴とお菓子。熱いお茶。これで完璧。ホカロンとレッグウォーマーと手袋を用意。

18 リハーサル。数日前にメトロノームに合わせる練習をしてしまったせいで、どうしても頭にメトロノームが鳴っている。これを一度忘れることにして、どんなに変かは録音で確認することを決意する。家では数十分だけ軽く指鳴らし。指鳴らしより、体を動かすことの方が大事。自転車を30分漕いで息を切らせたのが良かったのかもしれない。体は柔らかく、素晴らしいホールとピアノのせいか、何も考えなくても、どんどんアイディアが湧いてくる感じ。これまでと全然違う弾き方で、浸りきって弾けた。録音を聴くのは怖かったが、聞いてみると、とても音楽的な印象。先生の意見は怖くて、聞けず。「大変良い」とのご発言があったが、それ以上は聞かないことにして、「ありがとうございます」とだけ言って立ち去り、我が道を行くことで決意を新たにする。

19  会場のピアノと自宅のピアノは違う訳だから、自宅に戻っても弾かなかった。せっかくのリハの感触を大切にすることにした。むしろ、自宅に戻らない方が良かったかもしれない。大きい会場なので、視覚からのわかりやすさも大事だと感じ、要所要所で若干の身振りも入れることにする。

20  いつもなら、他の方の演奏を聴くのが楽しみなのだが、自分の番が回ってくる20分前くらいからは、イアホンで自分のリハや昨年の演奏を聴く。誰とも喋らず、笑顔も作らず、ブスっとして、自分だけの世界に没入する。自分が良いと思う弾き方をすることを再確認する。リズムがおかしかろうと、強弱がついてなかろうと、何を言われてもいいじゃないか。

21 一番大事なことはリラックスであることを以前学んだ。ある曲を続けて2回弾いた時、「リラックスして」と言われて、それだけを考えたら、1回目より数倍うまく弾けたのだ。リラックスを心がけるだけで、これだけすごい効果があるということを体感したので、「リラックスさえすれば素晴らしい演奏ができる」と自分に言い聞かせた。あらゆる事態を想定して準備していたので、失敗しようがない、と考えた。自分の力が不足しているのは、もう仕方がないのだ。「力を発揮した場合の自分はなかなかのもののはず」という、根拠のない自信を持つため自分に対して暗示をかける。とにかく、不安であったり、焦っていると、その気持ちがそのまま音楽になってしまう。伝えたい感情に、自分自身を持っていくことが、最も大事なこと。

 

本番では、ピアノとホールの素晴らしさを再認識するだけで、他にびっくりするようなこともないため、とても落ち着いて弾けた。ピアノメーカーが自宅と同じで、調律師の方が師匠のピアノの調律をされていると聞いている。コンサートを聴きに行ったことは何度もあるので、自分にとっては最も弾きやすいピアノだったのかもしれない。

 

そうそう、へパーデン結節なのに、指や体に負担がかかる曲を弾けたのは、やはり良かった。手首の痛みは相変わらずだが、ずっとテーピングをしていたので、手首をむやみに動かすクセは治りつつある。なので、本番では流石にテーピングを外して弾いてみた。痛くなったらなったでしょうがない、と開き直ったのが良かったのか、痛くならず。録画を見ても、手首には負担のない弾き方をしていたと思う。どこかが痛くなるのは、弾き方を改善するためのチャンスだと思う。